【Special】属人化の回避とスキルアップは両立可能か? ― Zabbix Japan LLC 寺島さま インタビュー(2)

数々の強力な監視機能や、豊富な外部連携を持つZabbix。セミナーやトレーニング、ユーザブログなどを通じて認知が広がっています。また、オープンソースソフトウェアとして、無料で導入して簡単に使えるのも大きな魅力ですが、実際に使いこなすには?そもそも、システム監視を属人化させることなく、エンジニアはスキルアップできるのか?
11月の「Zabbix Conference Japan 2020」後に、オフィシャルパートナーであるIIJの福原が、Zabbix Japanの寺島さんにお話を伺いました。3回の連載でお届けする、今回は2回目です。

前回はこちら
【Special】認知向上で増えたZabbixの「指名買い」― Zabbix Japan LLC 寺島さま インタビュー(1)

お話:Zabbix Japan LLC
代表 寺島 広大さま

 聞き手:IIJ 福原

監視を始めたエンジニアが、その先へと進むには?

IIJ 福原(以下、福原):前回(117を公開後にリンク)のお話の、Zabbixを使った基本的な監視なら、スキルが高いエンジニアでなくても、ある程度は使えるというのは同感です。ただ問題は、その後、実務としてのシステム運用ですよね。

Zabbix 寺島さま(以下、寺島):そうなんです。監視という業務の一つ一つのポイントは、そこまで難しいということはありません。結局、その集合体なので、実際にはシンプルな仕事です。システム運用や監視の経験がなかったエンジニアの方でも、まずは基礎的な部分からスタートしていけば大丈夫です。
確かにZabbixも比較的簡単で、しかも無料です。しかし、何となく使い始めたその先で、結局、自社のシステムには何があって、どう監視すればいいのか?何をインシデントするのか?そもそも監視する必要があるのか?などを、的確かつ過不足なく把握する必要が出てきます。

福原:Zabbixで簡単に監視を始めた、その次のステップ、と。

寺島:はい。監視する機器や設定など、対象や基準の設計が重要です。

福原:やはり、監視設計は重要ですからね。例えば、運用しているシステムで、アプリケーションのログを監視をするだけなら簡単です。しかし、そのログにどんな情報が入っているのか?それはビジネスに影響するのか?しないのか?現実には、アプリケーションを作ったエンジニアにしかわからないことも多くて、単に、システム運用や保守をするだけのエンジニアではどうにもならないこともあります。
Zabbixをただ使うのとは違って、システムそのものを止めないとか、ビジネスにネガティブインパクトを与えない・最小限に留めるために、必要な監視とは何だ?ということになると、一つ上のレイヤの話になります。

寺島:おっしゃるとおりです。システム運用するに従って、一定の期間を過ぎたり、規模が徐々に大きくなっていくとどうしても、システムのパフォーマンスが下がったりするため、Zabbix自体や、その後ろで動くデータベースのチューニングなどが必要になります。その辺りも考慮した監視設計ができるようになるには、エンジニアとしてのスキルを上げる必要があります。
ここは、勘所がわからないと苦労するところなので、経験の有無で大きく差が出ます。そういう意味では、Zabbixをただ導入するのではなく、スムーズに活用するための妥当な技術支援を得るために、パートナーにご相談いただくのがいいでしょう。
また、弊社で販売しているハードウェアのアプライアンス製品をご検討いただく方法もあります。これらは、すでにチューニング済みの製品なので、現場のエンジニアの負担を減らすことが可能です。

福原:そうですね。単に監視ツールの良し悪しではなく、お客さまのシステムとその先のビジネスへのインパクトまでちゃんと考えて、監視を設計することが重要です。私たちパートナーは、その辺りを実際にお客さまと丁寧に話を繰り返しながら、どのような対象を監視すべきか?Zabbixを使ってどのように解決できるのか?に取り組んでいます。
弊社の「IIJ統合運用管理サービス(UOM) マネージドモニタリング for Zabbix」も、アプライアンス型のソフトウェアを使っています。Zabbix社でチューニングいただいているため、導入先企業で手間が掛かる設定をしなくても使える、便利なサービスとして提供しています。
Zabbixパートナーとしての弊社も、サポート契約をご購入いただいているお客さまはもちろんですが、そうでない企業でも、弊社の社内で回答できる内容であれば、知見を活かして対応しています。Zabbixを上手く導入し、ビジネスに活用できるようなトータルサポートを提供しています。

なぜ大規模システム向け「マネージドモニタリング for Zabbix」なのか
― IIJだからできる!エンタープライズ向け総合ソリューション | IIJ Engineers Blog
https://eng-blog.iij.ad.jp/archives/6780

トレーニングなど、充実したZabbixの学習リソース

福原:Zabbixはオープンソースソフトウェアなので、個人でもダウンロードして試せます。また、寺島さんご自身が書かれたZabbixの書籍や、ユーザブログなどもいろいろあるので、独学でもやれなくはないでしょう。ただ、経験者が十分ないないものの、これから使っていきたいエンジニアだとか、スキルアップしたい現場の人たちには、トレーニングで集中的に学ぶのは効率的でしょうね。

寺島:そうですね。毎年、カンファレンスでアンケートを取っているんですが、「現在の監視システムの課題について」の質問に対する答えは、「設定が複雑で面倒」「わかる担当者が限られている」という2つが、常にトップなんです。

アンケートの回答は、「設定が複雑で面倒」「わかる担当者が限られている」の2つだけで50%近くを占めるほど(出典:Zabbix Japan)

福原:トレーニング参加者の反応などは、どうですか?

寺島:初めてZabbixを使う方だけでなく、実は、すでに長く使っているエンジニアもいらっしゃって、アンケートを見ると『知らない機能がまだあったので、今度から業務に活かせそうです』というコメントをいただくことも多いです。

福原:エンジニアのスキルアップといえば、認定トレーニングプログラムも拡充されるお話が出ていました。

寺島:はい。Zabbixのトレーニングは定期的に開催していて、多くの方にご参加いただいています。3日間のコースでZabbixに関する概要を集中的かつ体系立てて学習できる、実践的なプログラムです。最新のメジャーバージョンZabbix 5.0に対応したコースや、日本では「Zabbix入門」「APIコース」という独自コースも設けました。ご参加いただける対象者も従来よりも広げ、Zabbixの個別の機能だけでなく、全体を組み合わせて使うと便利で効率的な監視設定ができることを、満遍なく理解できるプログラムとして強化しています。

福原:普段、仕事をしながらだとどうしても、打ち合わせや急な対応に追われがちですから、コンパクトにポイントを絞って集中的に学習できる機会は必要かもしれません。

寺島:そうですね。Zabbixという監視ツールそのものの知識はもちろん必要なんですが、機能や設定、効率化など、システム運用の全体に関係するスキルも不可欠です。システムそのものだけでなく、ネットワーク機器やOS、CPU、メモリ、データベース、アプリケーションなどを、どう監視するか?そもそも対象とする必要があるか?監視の基礎知識だけでなく、システム運用まで考えた幅広いノウハウは、どうしても必要になってきます。
こういってしまうと、『やっぱり難しそうだ…』ということになってしまいますが、エンジニアは全員、最初から全部のスキルがあったわけではないですよね。Zabbixには、トレーニングだけでなく、Webセミナーやコミュニティ、書籍など、学習リソースも豊富にあるので、できるところからチャレンジしてもらいたいと思います。

#属人化の回避とスキルアップ、チームワークは成立するか?

福原:システム運用の現場は、元々、リモートで回っている業務です。その点では、Zabbixユーザは、パンデミックでもある程度柔軟に対応できる環境にはあったといえますね。現実には、他にもいろいろやることがあって、そうとも言い切れないでしょうが。

寺島:そうですね。そもそも監視という業務は、人が現場やオフィスに張り付いていなくても、問題があったらアラートメールで通知してくれるので、テレワークとの親和性は比較的高いと思います。自動的にサーバを再起動させるスクリプトをキックしたり、画面のボタン操作でシステム側にコマンドを送ったりもできるので、上手く活用すれば、わざわざ人が手で操作しなければならないことは最小限に減らせます。Webブラウザだけで操作できるので、タブレットなどでも操作しやすいです。もちろん、社外からのアクセスにはVPNなどセキュアな環境は必要ですが、基本的にエンジニアがどこにいるかは関係ありません。

福原:ただ、そうでなくても人が足りないシステム運用エンジニアの仕事が、新型コロナウイルスの影響拡大が懸念され始めた頃から、急にテレワークに対応するための仕事が一気に増えました。そのため、通常業務が回らなくなったり、属人化していた業務が顕著になったりしたという話も耳にしました。
逆に、限られた人数で何とか急場を凌いだところ、経営層など、システム運用に直接関わっていない人たちからは、元々無駄な人材が余っていたのではないかと誤解されるとも聞きます。こういった人材が属人化してしまう状況については、どう感じていらっしゃいますか?

寺島:実は、Zabbix以を含め、システム運用の現場で使われる監視ツールは、種類がそれほど沢山あるわけではありません。そのため、その監視ツールを最大限に活用するには、それに合わせた経験が必要となります。つまり、逆説的ですが、監視業務は、属人化しやすい領域ではあるんです。当たり前ですが、結局、Zabbixを使って実際に運用を担当している人にナレッジが溜まりますから。
ただ、Zabbixはオープンソースソフトウェアなので、有償製品に比べると一定レベルであれば使えるエンジニア人口が多いのは強みです。また、オンライン・オフライン共に学習リソースも沢山あるので、ネットで情報を調べながらスキルアップしていくことができます。
システムを属人化させないことと、エンジニア個人がスキルアップすること、そしてチームとしてナレッジが共有されることは、同時に成立すると思います。

トレーニングやコミュニティが充実しているのも、Zabbixの特徴です。次回は、最終回。今後Zabbixが目指す方向や機能についてのお話です。
【連載:第3回】
【Special】監視を入口にした新たな付加価値の提供 ― Zabbix Japan LLC 寺島さま インタビュー(3)

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