増大し複雑化する日本のトラフィック:現場のプロに聞いてみた(7)

増大し複雑化する日本のトラフィック:現場のプロに聞いてみた(7)

前回は、SD-WANを皮切りとして、ネットワークの現状をSさんに伺いました。速くて、安定した回線をリーズナブルに利用できるのが日本のメリット。それもこれも、影で奮闘するエンジニアの皆さんのおかげです。しかし、トラフィックは増え続けるだけでなく、ますます複雑になっているんだそうです。引き続き、Sさんの話に耳を傾けてみましょう。

SD-WANにネットワーク屋がモヤるワケ:現場のプロに聞いてみた(6)
https://un4navi.com/interview/19068/

増え続け、複雑化するトラフィックの悩み

―トラフィックといえば、最近の日本国内事情ってどうなんですか?

S ここ数年、毎年20%ずつぐらい増え続けています。この数字は企業も個人も含めてですが、実は、個人がメインなんです。法人がそれについていっている状態です。

総務省|平成30年版 情報通信白書|データトラヒックの拡大
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd111100.html

―スマホの普及が頭打ちの中、メインが個人だというのはちょっと意外ですね。データ量からいうと、やっぱり動画コンテンツとかですか?

S そうです。例えば、みんな家に帰ればYouTubeやHulu、Netflixを見てるわけじゃないですか。少子化の中で、子供の将来なりたい職業ランキングの上位に、YouTuberが来る時代です。デバイスも、スマホにタブレット、インターネットテレビ、ゲーム機、VRデバイスなど、多種多様ですし。

―新しいデバイスも次々に出て、家庭にもIoT家電が増えていきますしね。

S そうなんです。個人や家庭、中小企業は、ネットワークに接続する自由度が高く、インターネットに直接接続してもOKでしょう。一方、大企業はより安全なセキュリティ管理のための閉域接続など、環境が制限されます。以前は、ネットワークといえば、拠点間だけをつなげばOKだったのが、今は接続先も接続方法も複雑になって経路制御が大変なんです。

―トラフィックが増えるだけではなく、より複雑化していくわけですか。

S はい。快適さを求めるユーザに、ストレスを感じさせないだけのスループット(転送速度)は不可欠です。しかし、静止画や動画などのコンテツは、よりリッチになってデータ量は増える一方。また、セキュリティのためには、端末とアプリケーション、サーバすべてで通信を暗号化することが必須。こうなると、セッションを管理するNAT装置やゲートウェイに、どんどん負荷が掛かってくるわけです。途中のセキュリティ装置も、セッションの中身を解析して変な通信は除外しようとがんばるものの、追えなくなってくる。爆発的に増え続け、複雑化するトラフィックをどう捌くか?ネットワークやセキュリティを担当する企業にとって、大きなテーマです。

SD-WANにネットワーク屋がモヤるワケ:現場のプロに聞いてみた(6)

―そういえば、HTTP/3がアナウンスされていますよね?

S はい、httpプロトコルの3つ目のバージョンです。インターネットのネットワークプロトコルを標準化する業界団体であるInternet Engineering Task Force(IETF)が、それまで「HTTP-over-QUIC(hq)」と呼ばれていたのを、去年の秋に名称変更しました。

―確か、QUIC自体は、すでにChromeには実装されているはず…。

S はい。「QUIC(Quick UDP Internet Connections)」は、Googleが開発したプロトコルで、遅延も少なく、ネットワーク帯域を効率的に利用でき、暗号化もサポートしています。すでに、Googleのサービスなど一部で使われています。
このQUICをUDPの上で動かす仕組みが、HTTP/3です。HTTP/1.1や今のHTTP/2では、インターネットで利用されているプロトコルはTCP(Transmission Control Protocol)ベースです。TCPはデータの送信順序や、データ欠損のエラーチェック機能といった高い信頼性を持つ一方、サーバとクライアントの間で多数の通信が往復するため、スピードの点では不利です。そこで、TCPに代わってUDP(User Datagram Protocol)が採用されました。UDPは、通信相手のデータ受信を確認したり、データ欠損を検知するような制御をせず、データを送りっぱなしにするので、高速なやり取りが可能です。
HTTP/3が導入されれば、例えば、ストリーミングやビデオ会議のようなリアルタイムのサービスは、スループットを稼げるので、さらに利用シーンが広がるでしょうね。

 

YouTubeをGoogleが買収したのが2006年。つまり、今の小学生は全員が、生まれたときからYouTubeがある世代です。ネットワークのトラフィックは着実に増え続け、複雑さも増す中で、それに耐えられるように、事業者は常に回線を増強し、適切な維持管理をし続けます。さて、そうなると気になるのはアレ。トークのスループットも上がったまま、次回へと続きます。

2020年の夏は5Gで回線が逼迫?:現場のプロに聞いてみた(8)
https://un4navi.com/interview/19070/

SD-WAN「インターネットブレイクアウト」の落とし穴 – IIJ Omnibusで課題を解決
https://www.iij.ad.jp/svcsol/campaign/omnibus_201810.html

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