人が判断するためにある運用設計:現場のプロが語ってみる(7)

IIJの福原です。運用設計についての長かった話も、いよいよ最終回です。はっきり断言できないことばかりでしたが、現場のことを深く知れば知るほど、『これが正しい』『王道だ』のように、安易には説明できないことがわかってもらえるはずです。前回、運用設計は重要だが、段々と設計しない方向へ進むのではないかという話をしました。最終回は、これからの運用設計やシステム運用について、私なりの考えをお話ししてみたいと思います。

運用には、システム全体を考えた視点が不可欠

新しい技術の登場で、運用設計する内容や対象がどんどん変わってきています。ハードウェアがクラウドに置き換わり、OSはPaaSとして、アプリケーションはSaaSとして、それぞれ構築されるようになっています。純粋に監視しなければならないレイヤが減ることで、システム運用として意識する必要がなくなっています。
そのため、今までのように、ピンポイントでサーバやネットワークをきっちり細かく見ていくというより、上がってきたデータを元に、システム全体としてどう動いているかを把握して、運用していくスタイルに変わりつつあります。これからのシステム運用には、ミクロな部分を注視するというより、システム全体を考えたマクロな視点が不可欠なんです。
というより、サーバも多様化・複雑化している中で、もはや膨大なログをベースにして人が一つひとつを判断できる限界は、すでに超えています。そういう処理こそ、AIが得意とするところ。これからは、システム全体を俯瞰して、統合的に判断せざるを得ないのが現実なんです。
今後は、システムの機能をある程度テンプレート化するような考えも必要になるでしょう。実際、大手のお客さんだと、既にカタログ化しているところもあります。サーバに使う基本機能を、カタログから選んで組み合わせるだけ。使う機能も分かっているので、監視や運用も標準化できます。ただ、これもクラウドサービスと一緒で、カタログにない新しい機能が使えないわけです。となると、定期的にカタログを更新する必要が出てきますね。その『カタログを作って定期的に更新する』というのは、つまり運用設計の業務なんです。
これからは、運用設計・監視設計に準じてログを細かくチェックして対応するというより、システム全体を見て『徐々に遅くなっている気がしないか?』、『何となくおかしくないか?』といった、必ずしも言語化できない感覚で判断するのが、これからの運用トレンドになっていくと思います。まさに、現場の経験で鍛えられる「職人の勘」が重要になっていくわけです。

<PR>運用設計に正解はなくても、システム運用の現場は、ベストな選択を求めて今日も奮闘しています。そんなエンジニアを助けるのは、SaaS型の統合運用管理サービス「UOM」!詳しくはこちら

人が結果を解釈し、判断を下すための運用設計

さて、運用設計はこれからどのように変わっていくでしょうか?運用設計や監視設計が不要になるわけではなく、本質的に重要なことは変わりないでしょう。ただ、正直、私たちも日々悩みながら仕事をしているので、『将来、運用設計はこうなる!これを目指せ!』とはいえません。
少なくとも、クラウドやコンテナ、AI、機械学習、ディープラーニングなど、新しい技術は取り入れて、その技術に任せられるところは任せる傾向にあると感じています。新しい環境や技術はどんどん増えていくので、それらにどう対応していくか。いろいろなシステムのアクセスや稼働、ネットワークなど、雑多なログを取りあえず集められるだけ掻き集め、そこから傾向や特徴を見い出すことが必要でしょう。その分析のアシストとして、AIがシステム運用の現場に導入されるのも、一般的になっていくはずです。
同時に、わざわざ人という貴重なリソースを使ってやらなければならないことの価値は、ますます高くなっていくでしょう。システムはシステムに任せて、人は人でなければならないことに集中する。システム運用に長く関わってきた現場の人間としては、やはり最終的には人であるエンジニアが結果を解釈し、判断を下すべきものだと思っています。

運用設計について、7回に分けて説明してみました。少しでも、運用設計がどんな業務か理解する助けになったでしょうか。
では、運用設計に関わるエンジニアとして、一体何をすればいいのか?それは、地道かつ真摯に、目の前のテクノロジーに向き合うことです。開発したシステムをお客さんの元に納品して終わりではなく、効果的な運用まで最初から考えた長いお付き合いで、きちんと成果を出し続けていくことです。口にすれば、ごく当たり前のことですが、その当たり前が難しいんだと思います。それでも、その当たり前を今後も地道にやっていくしかないでしょう。
最後まで、お付き合いありがとうございました。これからも、システム運用に関わるエンジニアの皆さんを応援しています。

【前回までの連載内容はこちらからご覧いただけます】

【連載1】運用設計って一体どんな仕事なのか?:現場のプロが語ってみる(1)
【連載2】正解がない運用設計という「思想」:現場のプロが語ってみる(2)
【連載3】設計に至る運用エンジニアのキャリア:現場のプロが語ってみる(3)
【連載4】運用エンジニアのマインドと存在意義:現場のプロが語ってみる(4)
【連載5】職人技だからこそアウトソース可能!:現場のプロが語ってみる(5)
【連載6】運用設計を「しない」トレンド!?:現場のプロが語ってみる(6)

IIJ_福原亮株式会社インターネットイニシアティブ
システムクラウド本部
クラウドサービス3部 副部長 兼 M&Oサービス開発課長
福原 亮

<PR>人が最終的な判断を下すには、広い視野の設計思想、そして時間と心のゆとりが必要です!自動化・効率化するなら、SaaS型の統合運用管理サービス「UOM」!
詳しくはこちら

関連記事

∞∞∞∞∞∞∞ おすすめ記事 ∞∞∞∞∞∞

  1. スピーディな開発でクラウドを便利に:現場のプロに聞いてみた(4)

    シンプルな機能がクラウドの付加価値:現場のプロに聞いてみた(5)

    Azure/GCP/AWSという、巨大かつ強力な機能を持つクラウドサービスとしての制約。ビジネス的に…
  2. 覚えてしまえばすごく楽!Markdown記法を使ってみよう

    覚えてしまえばすごく楽!Markdown記法を使ってみよう

    Markdown(マークダウン)記法、使ってますか?「README.md」として見掛けたことがあるか…
  3. システム運用をアウトソーシングする?しない?チェックはココだ!

    システム運用をアウトソーシングする?しない?チェックはココだ!

    今、多くの企業でシステム運用が負担になっています。その理由は、「把握すべきITシステムの増加」や「シ…
  4. 仮想化に使うコンテナ技術って何?仮想マシンじゃどこがダメなのか?

    仮想化に使うコンテナ技術って何?仮想マシンじゃどこがダメなのか?

    仮想化技術は今やITシステムに不可欠で、ビジネスの規模や業種に関係なく広く使われているのは、以前の記…
  5. マルチクラウド時代のSaaS、PaaS、IaaSを改めて復習しよう

    システム運用でも、もはや抜きでは語れないのがクラウドサービス。ひとまとめに「クラウド」といっても、大…
ページ上部へ戻る