シンプルな機能がクラウドの付加価値:現場のプロに聞いてみた(5)

スピーディな開発でクラウドを便利に:現場のプロに聞いてみた(4)

Azure/GCP/AWSという、巨大かつ強力な機能を持つクラウドサービスとしての制約。ビジネス的に難しいこともわかりました。しかし、クラウドの広がりや機能強化は今後も続くはず。となるとKさん、結局、ビジネスとしての差別化は一体どこで?

スピーディな開発でクラウドを便利に:現場のプロに聞いてみた(4)
https://un4navi.com/prologue/19066/

カンタンかつ細かいサービスで差別化にチャレンジ

―確かに差別化は大変そうですね。

K そうなんです。ネットワークは、安定して稼働することが重要なのは当たり前ですが、お客さんにとって単なる「土管」なら、別に弊社でなくてもいい。『回線品質が高く、コストパフォーマンスがいい』という評価はありがたいことなんですが、差別化された付加価値にはなり辛いです。しかし現実には、ネットワークが原因ではなくても、8月末のAWSの大規模障害のような、想定外のことが起きてしまいます。

―となると、どこでお客さんのハートと財布の紐を掴めばいいでしょう?

K ユーザが困っている課題を多方面から集約して、それを解決できる機能を付加価値にしたサービスを提供し続けています。
例えば、Office 365だと、URLやIPで変更された点を独自に収集し、それを元にWebアクセスのトラフィックをコントロールするネットワークサービスを提供しています。よく知られたことなんですが、Office 365のURLやIPは、比較的更新頻度が高いんです。これに、人手で追従しようと思うと、結構、大変なんです。公開されているサイトには、Microsoftのものではない、例えばYouTubeなども含まれているので。また、YouTubeのようなメジャーなところは見てわかりますが、そうじゃないものを、数百あるURLから見つけて、省いたりは大変な労力です。

―ひとつひとつは小さなタスクでも、集まると面倒だったりしますからね。

K はい。情報を自動で収集して、整理し、ユーザに提供するだけでも、負担が減らせます。一つのサービスを作って社内説明会を開くと、いろいろなアイデアが集まるので、そこから機能のヒントを見つけたり。他社が面倒がってやらないような、地味で小さなところも大事にしています。本当に地味な「スキマ産業」なんです。
ただ、ビジネススケールの大小に関わらず、コストに見合ったできるだけ高い価値を継続的に、お客さんに提供していきたいと思っています。…と、いうのは簡単でも、作るのはすごく難しいんですけどね。それが何か、常に考えてます。

―他でもよく耳にしますが「カンタン」って、最近のトレンドワードなんですかね?

K そうですね。情シスは、『クラウドサービスの導入は簡単だし、導入後もバージョンアップが不要で運用負荷が減る』と期待していた。ところが、社内にあったものが外に出ることで、想定していなかった面倒なことが出てきたんです。さっきのOffice 365のURLの話のようなことですが、元々、想定してなかったので、できればやりたくない、簡単にすませたいんです。自前でやればやれなくはないけれど、負荷が高くなることで、本来やりたいことが阻害されるのは本末転倒ですから、それが解消されれば現場の人たちは本当に助かると思います。
情シスからしてみれば『クラウドサービスを社内展開して、ユーザに快適に使わせたいだけなのに、何でこんな面倒なことをしなければならないんだ!』というストレスは、思った以上に強いようです。
スピーディな開発でクラウドを便利に:現場のプロに聞いてみた(4)―ところで、チームの雰囲気はどうですか?

K いいですよ。うちは、元々、SIでプロジェクトマネージャやエンジニアをやっていたり、客先に常駐して顧客と一緒にシステムやサービスを作ったりしていた連中が集まっているので、考え方が柔軟です。サービスをきちんと作って守っていくという姿勢もあれば、面白そうだからとにかくやってみるという、両方のマインドを持っているスタッフが多いです。
ただ、チームメンバーの雰囲気は若いんですが、平均年齢はちょっと高くて。『マインドは高く、体力はなく』というか(笑)。

―どこも似たような状況かもしれませんね。

K 技術の変化が速いため、やはり経験も必要で、優秀なエンジニアとして第一線で働いていた人たちが、そのまま持ち上がってきています。

人材を育てるって本当に難しくて、本人に育つ気がないと、特に。上のオトナたちの役目は、チーム内が変な空気にならないように、適度に気を遣っていくことですかね。面白そうだったり新しいことにチャレンジして楽しくやってると、人は自然に伸びていくように思います。
常に考えているのは、クラウドサービスやネットワークサービスそのものをどうするかより、『そこにどんな付加価値をつけられるか?』『その先で何かやれないか?』です。平凡なサービスを開発していても、他社との差別化になりません。社内で多少、『何だかアイツら、またバカなことやってんな』ぐらいのことにチャレンジしていかないと、開発者として単純につまらないのと、会社自体も成長していかないと思います。

―ところで、最近、注目しているサービスや技術はありますか?

K アプリケーション開発の出身ということもあって、新しいものがどんどん出てくるPaaSやFaaS(機能 Functionとしてのサービス)には常にアンテナを立てています。それ以外だと、切れにくいVPNサービスのNetMotionには注目しています。
今までは、ネットワークサービスって『土管は所詮、土管』だったのが、発想の転換というか技術的な工夫で、例えばNetMotionみたいに切れにくいVPNを実現するとか、ネットワークの経路や状態を可視化できるようになったり、経路制御が他のアプリケーションと連携してユーザやグループの権限ベースでできるようになるとか、面白いサービスが登場すると期待しています。

モバイルパフォーマンスとオペレーショナルインテリジェンス | NetMotion Software
https://www.netmotionsoftware.com/ja

―なるほど。最後に、Azure/GCP/AWS以外にも、取り扱いを広げていく予定はあるんでしょうか?

K いや、主要なクラウドサービス3社以外の強烈なサービスが出てくれば検討するかもしれませんが、増えても手間ばっかり掛かりますからね。MSP(サービス提供業者:マネージドサービスプロバイダ)としての認定手続きとか、バックオフィスにおいても、ビリングと呼ばれるような支払いや請求の業務などの負荷もすごく高いんです。3大クラウドを追う、メジャーどころのクラウドサービスなども頭の片隅には置いていますが、時代のニーズ次第でしょうね。
ニーズといえば、今後は、AIやマシンラーニングなどの需要は出てくるでしょう。僕らももちろん注目していますし、実際に使ってみないとわからないので、検証することもあります。ただ、ノウハウ全部を必死で追いかけていくのではなく、僕らが作っているサービスと組み合わせて使えるものがあれば使ったり、各クラウドサービスごとの特徴を活かしつつ、どういう機能があればさらに便利になるかを考えていきます。

 

Kさんに、3回に渡ってクラウドサービス周りの現状を伺いました。システム運用担当者の皆さんが、日々お世話になっているAzure/GCP/AWSのクラウドサービス。それを快適に使えるように、いろいろな環境に翻弄されながらもユーザのために日々奮闘する、現場のエンジニアたちがいました。

Azure/GCP/AWSの各クラウドとニーズ:現場のプロに聞いてみた(3)
https://un4navi.com/interview/19065/

スピーディな開発でクラウドを便利に:現場のプロに聞いてみた(4)
https://un4navi.com/interview/19066/

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